2017年4月28日金曜日

 2004年11月 ◆ 剣道修行の要諦(その八) ◆

技術訓練の諸問題について述べます。教える人にも教わる人にも大事なことです。

一、剣道はその技術において、武術としての刀法を基準として研究しなくてはならない。(※印は解説)
※剣道は、武道です。「武道とは、武技の錬磨によって旺盛なる気力と強健なる体力を養うとともに礼節を尊び、信義を重んじ、秩序を保ち、相共に和し、以て人類の平和と繁栄に寄与せんとするものである。」
 武技とは、日本刀のことです。もともと剣道は、日本刀による真剣勝負から始まったものです。従って、竹刀剣道においても、その源流は真剣勝負だというのが伝統です。  竹刀は日本刀の観念というのが、現在の考え方です。稽古の方法としては、日本刀又は木刀による各種形や、木刀の素振りによって姿勢、体捌き、手のうちの作用、呼吸、技などの基本を練り、それを元にして竹刀剣道に応用してもらいたいものです。剣(刀)を離れて剣道はあり得ません。“持っている竹刀が日本刀ならばどうする。”ということを常に考えて稽古してください。

二、技術はすべて、自然運動の原則によって行うように心掛けることが効果的である。
 自然運動の原則とは、
(一)リズミカルでアクセントがあること。
(二)全身的、綜合的であること
(三)腰を中心に重心の移動があること。
(四)動作は筋肉の緊張と解緊の原則によって行われること。
(五)動作は曲線的であること。
 以上五項目ありますが、どの項目も正しい姿勢と呼吸に関係があります。丹田呼吸によって“上虚下実”という状態の姿勢ができます。前に述べました素振りを正しい方法でやれば、自然運動の原則が身につきます。(次号に続く)

2004年12月 ◆ 剣道修行の要諦(その九) ◆

前号からの続きを説明します。

三、技術の訓練は、常に試合に関連して行わなければならない。
 昔から“稽古は試合の如く、試合は稽古の如く”という箴言があります。
 この稿(その二)で、“稽古の目的”で説明しましたように、平素の稽古は、試合のとき立派に勝つためにやるのだと申しました。平素の稽古を疎かにしておいて、試合に勝つことも、昇段審査に合格することもできません。稽古と試合は、やる内容は全く同じです。いつも真剣に理合に則った稽古をしておれば、試合や昇段審査の時、そのままやればいいわけですが、理屈通りにゆかないのが剣道の難しさです。稽古は、やり直しがきくことが利点ですが、試合には、やり直しはききません。平素の稽古のとき、一本一本試合をやるつもりで一所懸命になってやることです。うまく打ったときも打たれたときも工夫することです。特に打たれたときや、負けたときに、なぜ打たれたか、なぜ負けたのかを工夫して下さい。工夫のないところに進歩はありません。先生に聞いてみることも大事なことです。

四、剣道の技術は正面打ちを根幹として基本打突を行い、応用のしかけ技、応用の技の順に重視して行うことが望ましい。
 沢山の技の中で、面技が根幹になります。面技をうんと稽古して打てるようになれば、外の技は自然にできるようになります。立派な面が打てるようになったら、その人の稽古は立派だといえます。特に初心者や幼少年の指導では、正確な面の打ち込み(正面の基本打ち)をみっちり指導して頂きたいものです。

 “横振りに名人なし”という格言があります。竹刀は縦々に振れということです。

2004年10月 ◆ 剣道修行の要諦(その七) ◆

静坐における調身、調息、調心について前号で説明しましたが、中でも調心が一番難しいようです。雑念を払って無心になることですが、剣道では一番大事なことで一番難しいことです。気長にやってみましょう。
 静坐をやって呼吸を練れば次のような効果があります。
 第一に直感力が養われます。雑念が入ると直感力は働きません。無心になっていると相手の動きが自然に自分の心に映ります。
 第二に集中力がつきます。一つのことに全神経が集中していると相手の動きに対応できます。
 第三に胆力がつきます。一般には度胸いいます。呼吸が丹田に収まっていると心が動かなくなります。
 第四は気位いが出てきます。気位いとは大変難しいことですが、気位いとは、鍛錬を積み重ねることによって得られた自信から生まれる威力、威風とでもいえるものでしょう。
 以上四つのことは、いずれも大事なことばかりです。

 ついでに“気”ということについて簡単に説明しましょう。気とは人間の生命の原動力といわれています。宇宙はこの気によって動いているのです。人間も又この気によって生かされています。私達人間はこの宇宙に遍満している気を、呼吸によって体内に取り込み、エネルギーに変えて体外に放出しています。そのエネルギーを気といいます。
 丹田呼吸を絶えず行うことによって気が旺勢になってきます。剣道ではそれを“気勢”といって大事にしています。  剣道の呼吸は、長呼気丹田呼吸です。呼く息を長く、吸う息を短く、然も一分間の呼吸の回数を段々減らす回数を努力してください。

  真人の息は踵(キビス)をもってし
  衆人の息は咽喉(ノド)をもってす

2004年09月 ◆ 剣道修行の要諦(その六) ◆

前回は、呼吸の意義と効果を説明しましたので、今回は呼吸の鍛錬法を説明します。
 剣道で呼吸が大事なことは判ってもらったと思いますが、知っているだけでは何の役にもたちません。実行することが大事です。
 種々方法はありますが、私達が稽古の始め、終わりに行っている「静坐」が一般的です。静坐は、第一に姿勢を調え、第二に呼吸を調え、第三に心を調えることから成りたっています。それを調身、調息、調心といいます。
 先ず、調身から説明しましょう。
 正坐のように両膝を立てて坐ります。両足の親指を重ね、両膝の間隔は約二十糎せんち位。腰をピンと立て、背筋を伸ばし顎を引きます。口の中に隙間がないように奥歯を軽く噛み、舌の先で上顎の歯の付け根を押さえます。眼は膝頭から一メートル位のところに視線を落とします。それを前から見ると眼が半分開いたように見えます。半眼といいます。手は右手のひらを上に向け、その上に左手のひらを重ね、両親指の先を付けて印を組みます。両親指の先が臍の高さで体に近く。肩の力を抜きます。体が調いました。
 次は、呼吸を調えることです。
 前号で説明しましたが、剣道の呼吸は長呼気丹田呼吸です。最初呼く息から、出来るだけ細く長く鼻からはきます。次に吸う息は、太く短く鼻から吸います。丹田は臍の下五糎位のところですから、丹田をイメージして行うとうまくいきます。
 次は心を調える要領です。
 心に雑念があるとそれが隙になって打たれます。隙を作らない方便として一つのことに意識を集中する方法で、呼く息をヒトー、吸う息をツー、次の呼く息をフター、吸う息をツーと数え、トーオーまで数えてそれを繰り返します。数息観といいます。途中で雑念が入ったらヒトーツーに返ってやり直します。(次の号に続く)

2004年08月  ◆ 剣道修行の要諦(その五) ◆

丹田呼吸が健康になるための効果について続けて説明します。
(イ)丹田呼吸で横隔膜が運動します。その運動で心臓が圧迫されるので血流が良くなる。
(ロ)酸素が増大するので、筋肉内にミオグロビンという酸素を貯蔵する蛋白を生ずるので疲労を回復する。
(ハ)胸の息を気海丹田まで下げる。ここに力を入れると、健康と勇気が得られるといわれる。

二、運動心理学と呼吸の関係
 丹田呼吸によって横隔膜が上下して太陽叢を刺激します。太陽叢とは、自律神経の集まっているところで、みぞおちの奥にあります。自律神経には、交感神経と副交感神経の二つがあって、副交感神経が交感神経に比べて優位になると精神が安定します。
 丹田呼吸によって太陽叢を刺激すると、副交感神経が優位になるから心が落ち着きます。試合の前に緊張すると、オシッコがしたくなったり、口の中が渇いたり、からだが震えることがあるでしょう。それは交感神経が優位になっているのですから、丹田呼吸をやって副交感神経を優位にすることです。
 以上のことから、呼吸が乱れたら心が乱れる。心が乱れたら呼吸が乱れるということがいえます。どんなに技がうまく体力があっても、試合のときに心が乱れたら、切角の技も生きてきません。絶えず呼吸を練って心が乱れないよう努力してください。

三、剣道技術との関係
 剣道では、実をもって虚を打つことは鉄則です。虚とは隙です。呼く息は実で吸う息は虚です。実は長く、虚は短く。これが長呼気丹田呼吸の意味です。相手を崩すということは、相手の呼吸を攪乱することで、剣道は呼吸の乱し競べであって、早く呼吸が乱れた方が負けです。

2004年07月 ◆ 剣道修行の要諦(その四) ◆


 今回は、呼吸について説明します。呼吸という言葉は、物事を行うときの勘どころを指す言葉ですが、その源は、“息を呼く吸う”のいわゆる“呼吸”のことであります。
 呼吸には、
一、自然呼吸-胸式呼吸(無意識呼吸)
二、努力呼吸-丹田呼吸(意識呼吸)
 の、二通りありますが、剣道の呼吸は丹田呼吸で、しかも次の二通りあります。
一、長呼気丹田呼吸-構えているときの呼吸で、呼くときの呼吸は細く長く、吸うときの呼吸は太く短く。
二、短呼気丹田呼吸-打突時の呼吸で強く短く。
 普通に剣道の呼吸は、長呼気丹田呼吸と覚えていてください。
 その理由と方法については、これから説明します。

一、生理的効果(健康法として)
 丹田(腹式)呼吸は、自然(胸式)呼吸に比べて約六倍の酸素を摂取するので血液がきれいになります。肺に一杯吸い込んだ空気の量を“肺活量”といいます。日本人の肺活量は大人で320 立方ミリ。この量の少ないのは肺の力が弱いことを意味します。普通安静時の呼吸の出入りする空気の量は、平均500立方ミリですから、肺活量の約1/6に当たり、残り5/6の空気は、残気といって肺中に残っています。この残気が多過ぎると肺の酸化作用が障害させられるから、常に深吸してこの残気を入れ替える必要があります。
 長息(なが息)は、長生き(ながいき)に通じるといわれています。剣道をやれば、健康で長生きできるということは、静坐して丹田呼吸や稽古中の長呼気丹田呼吸をやっていることも大きな理由と考えられます。(呼吸の項続く)

2004年06月 ◆ 剣道修行の要諦(その三) ◆

  今回から“理合”の中の各要素について説明します。その中で特に重要なのは、“姿勢”と“呼吸”です。姿勢と呼吸は一体のものですが、分かり易くするために、姿勢から説明します。
 正しい姿勢が剣道の土台です。これができて始めて正確な技を行うことができます。正しい姿勢から正しい技が生まれるのですから、剣道を修めるものの、第一に心掛けねばならないことです。どんなに動いても、何回連続技を繰り返しても、正しい姿勢が崩れないことが大切なことです。
 姿勢は“姿”と“勢”から成り立っています。姿は外相。外から見た格好。勢は内相。充実した気勢といったらいいでしょう。どちらも呼吸と関係があります。
 姿勢には、静的姿勢(立・坐・臥の基本姿勢)と、動的姿勢(歩・走・跳等の動きつつある形及び動き出そうとする身構え等の動的姿勢の総称)があります。
 静的姿勢はいつでも動的姿勢に変化し、動的姿勢は静的姿勢に移行できるものでなくてはなりません。これを動静一如といいます。良い姿勢とは自然体。自然体とは最も自然であり、どこにも凝りがなく、如何なる身体の移動においても、又相手からの攻撃に対しても、敏速で自然に応ずることのできる最も自由な安定した姿勢であります。
 剣道では中段の構えを自然体といいます。自然体は顔を真直に向けて、首筋を伸ばし、顎を引き、両肩をひとしく下げ、背筋を真直にし、腰を立て、下腹部(丹田)に力を入れて両足先に意を込めて、両膝を軽く伸した姿勢です。

 姿勢 <姿・勢>丹田呼吸で心身一如。

 自然体は“上虚下実”といって、上半身の力を抜き、下半身が充実している状態です。(この項続く)

2004年05月 ◆ 剣道修行の要諦(その二) ◆


【理合について】
 剣道の理念は、「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」となっています。剣の理法とは、日本刀操法の法則のことです。但し、日本刀と竹刀では構造も操法も違いますから、竹刀は日本刀の代用と云うわけではありません。日本刀の代用は木刀です。竹刀は日本刀という観念で使えと云うことで、“この竹刀が日本刀ならばどう使うか”と云う気持ちの問題です。大変大事なことですから頭の中に入れておいてください。
 そこで理合と云うのは、日本刀操法の原理原則ですが、日本刀と竹刀は構造から違いますから、その操法も違う部分もあります。

【稽古の目的について】
 「稽古の目的は、基本動作及び応用動作において習得した技術を活用して、之に修熟し、相手の動作を察知して技を施す能力を養成し、終に試合に於いて勝利を得るための要領を会得させるものである。」
 試合に勝つために稽古すると云うことですが、稽古の順序を踏んで、理合いに則った稽古をし、結局は立派に試合に勝つためにやるものです。剣道から勝敗を抜いたら剣道は成り立ちませんが、勝つことだけが剣道の目的ではありません。目的は、人間形成であって試合は手段です。手段が正しくなければ、人間形成と云う目的は達成できません。

 以上のことから理合が重要になります。理合とは、剣法上の理論。筋道のこと。
一、試合に於いて、勝つと云う課題達成のための方法、手段。
二、自分と相手の間にとり行われる動きが合理的であること。
三、姿勢、呼吸、目付、間合、機会、体捌、手のうちの作用、部位、残心等、それらの要素の上に立って最大効力を引き出す法。

2004年04月 ◆ 剣道修行の要諦(その一) ◆

五小剣道教室の皆さんが、大変熱心に稽古されていることに敬服しています。
特に見事な“小平剣友会5小教室にゅ~す”を毎月発行されていることにびっくりしました。
何か書けと云う依頼がありましたので、これから時々書いてお手伝いしようと思いますので、
よろしくお願いします。
 今回は初めてのことですから、総論的なことを書いてみます。

一、稽古の方法
 【基礎訓練】
  (一)基本稽古
    (イ)基本動作
    (ロ)応用動作
  (二)打ち込み稽古
  (三)切り返し
  (四)掛り稽古
 【応用技術】
  (五)地稽古
    (イ)引き立て稽古
    (ロ)互格稽古
  (六)試合稽古

二、稽古の段階
  (一)初級者・・・修練期、初心者から三段
    基礎訓練時代
  (二)中級者・・・躍進期、四、五段
    正しい基礎の上にたって、体力、気力、技を生かして大いに活躍する時代。
    従って一番骨の折れる時代。
  (三)上級者・・・大成期、六段以上
    完成を目指して、心技共に円熟する時代。体力、技の剣道から、心の剣道へ。

以上述べました稽古の方法と、稽古の段階を覚えていただくと、これからの説明が判り易いと思います。
次回から、剣道の理合について説明します。